クソ生意気な子どもの戯れ

petitでのあれこれ

if.

例えば。



歪を是とする集団があるとする。



その中のある者に何らかの不具合が生じ、集団に背いたとする。



さて。



彼、或いは彼女は正常と言えるのだろうか?



マイナスとマイナスの掛け算、と単に考えればそうだろう。



集団の狂った状態をマイナスとして、その意思に反した考えを抱いたとしたら、転じてプラスになる。その考え自体は間違っていない。



問題は、秩序と混沌という物がプラスマイナスの数値で測れないという事だ。



詰まる所何が言いたいかと言えば。



俺は正常な意識を取り戻したわけじゃない。



また異なる混沌に身を堕した、ただそれだけで。



それ以下はあっても、それ以上はない。






そんな余所事を考える程度には余裕があったのか。
蝋燭塔の屋上。うつ伏せ、左手が顔に触れる。

……いや、余裕なんざないな。
左目があったはずの箇所は深く抉られ、触れた掌を緋く塗り潰していた。
他にも剣や矢が体に突き刺さっている。両足も潰された。あとは……内臓も幾らか壊れたな。
これで未だ意識があるのは人形だからか。或いはオリジナルが存外丈夫だったせいか?

ま、それも長くはない。

北世界の辺境、体にしんしんと雪が積もっているのがわかる。
にも関わらず寒さが感じられない。寧ろ、暖かさすら感じる。
脳……に当たる部分が故障したんだろう。もうじき俺は死ぬわけだ。



ぐ、と力を入れて。
ライフルのスコープ越しに、さっきまで見ていた景色を覗く。

ラファノールを先頭とした集団、『迷えるStain』らは無事ベレアスモーグを脱したらしい。
あれじゃ、俺がわざわざ手助けする必要もなかったか?
実際、遠距離狙撃などと大言壮語を宣って。誰を仕留めたわけでもない。
逆に遠距離攻撃を得意とする奴らに返り討ちに遭った、それがこのザマだ。



笑えてくる。

これで良かった。

俺は、誰を殺したいわけでもなかったしな。



「愛すべき尊い者はいるか」



否、とあの時答えた。それは俺以外にもいた。所謂『模範的な人形』たる奴は。

残念な事に俺は模範からは程遠く。
直後の王命、「愛する者を殺せ」という命令に酷く心を揺さぶられたわけだ。

嘘をついたわけじゃない。
俺にとっての『特別』は誰もいなくて、俺も誰かにとっての『特別』ではきっとなくて。
愛、なんて言われてもしっくりくる物はまるでなかった。



違った。

あの場の誰も失いたくなかった。

特別でなくても、自分の居場所がある。あの空間が大切だったのかも知れない。

誰にも死んで欲しくない、それだけだった。



だからか、当然のように『迷えるStain』を対象とした手紙は俺にも届いて。
結局、指定された集合場所には行かなかった。おかげで何があったのかはさっぱりだ、ラファノールやらオリジナルやら……それはさて置き。
こう考えたわけだ。「まさか脱走兵を援護する狙撃手が構えていると、誰も思わんだろう」と。
結果は不意打ちが多少できた程度で、手痛い反撃を食らって。無様だ。



ま、あいつらは無事に逃げおおせた。十分すぎる。
俺も時間稼ぎ程度の役目は果たせたんだろう。
ライフルから離れて、まだ動く右手を腰に伸ばした。



やけに色々な事が浮かんでは消える。
ああ。これで終いか。



アリベルは、俺の事も反逆者と見なすんだろうか。不義理をしたのは確かに俺だが。

キサロセラ共々腕を認めてくれた事、有り難いと思っちゃいるんだがな。

レーゲンハルト。あの時俺が勝っていれば、お前は選択せずに済んだのか?

だとすれば、クライオフェンには悪い事をしたな。俺が負ける事が馴れ初めになって、悲恋に繋がるとは思わなかった。

ソフィアが今日を迎えていたら、どうしていた?この国の外でならもう少し満足に生きられたのか?

ロッキも気にしていた。もし共に脱出できていたら……言っても仕方ないな。……酒は、飲みたかったな。

メルドグラースのオムライスも食いたかったな……

アロロ、顔合わせの時にこっちを見ていたのを気にかけてやれば良かった。

あとは……俺と同じ顔の女、か。

…………………………

眠くなってきた。



そう言えば。仮に俺が死んだとして、魂を囚われて再利用でもされるんだろうか。

それとも、人形はただ壊れるだけなんだろうか。

……興味ないな。



後悔は、ないわけじゃない。

誰かの『特別』になりたくなかったと言えば嘘になる。

でも、俺じゃなければこの役はできなかった。俺以外の誰がやってもいけなかった。

これは、俺だけが得た特権だ。独りで戦える俺だけが。



米神に銃口

もう終わりか。呆気ないな、我ながら。

ま、俺が捕らえられて誰かが犠牲になるのは見たくない。これでいいんだ。

引き金に力を込めて、







「一足先に……逝ってるからな」






一つの幕を下ろした。











もしオーロが昨日のイベントに参戦してたらっていう妄想垂れ流し。

冒頭の問い掛け云々、あれはアーゼルベイル君がアリベル君に投げ掛けた問いを勝手に拝借しました。ちゃんと無断でやっても怒られない人の台詞を選んで借りたので大丈夫かなって。

ていうか供養は昨日で終わってたんじゃねーのかよ。なんで無駄にSS書いてんの?